人間のの唾液腺には、左右一対の耳下腺、顎下腺、舌下腺の3大唾液腺と、唇、頬、口蓋、臼歯、舌の粘膜に散在する小唾液腺とがあります。
犬や猫では、頬骨腺と臼歯腺が発達して大唾液腺として加わり、5大唾液腺を持つことになります。
耳下腺はサラサラの唾液を出す漿液性細胞からなります。
顎下腺、舌下腺は粘液性と粘液性の細胞が混じっており混合性ですが、顎下腺は漿液性が、舌下腺は粘液性が主となります。
唾液には多少の塩分が含まれていますが、その味を感じません。
それは味神経を構成している神経線維には、水分に反応する水繊維と、ある程度以上の濃さの塩分に反応する塩繊維とが存在するからです。
唾液に含まれている塩分の濃度では、水繊維は反応するのですが、塩繊維は反応しません。
その濃度より薄ければ無味と感じて、濃ければ塩味を感じるのです。
人間では、新生児にも唾液分泌は認められます。
刺激もないのに見られる分泌を安静時唾液と呼びます。
安静時唾液は、その量の70%は顎下腺から、25%は耳下腺から、残り5%は舌下腺から分泌されます。
結果安静なときはサラサラの唾液が出るのです。
年齢に伴って唾液腺が成熟して行き、安静時唾液(混合唾液)の量は増加して、30歳ごろ最大に達し、年を取るにつれて、減少して行きます。
加齢と共に、唾液腺に萎縮、脂肪化が起り、機能が衰えてゆき、主として漿液性唾液の減少が起こります。
それで唾液が年を取るにつれて、粘るようになるのです。
このようにして唾液の比重や比粘度は、歳をとるに従い増加しますが、粘度は30〜40歳以後低下してゆき、表面張力は60歳以後で低下します。
入れ歯と粘膜との間の唾液層は、表面張力が小さいほど薄くなり接着力が増しますので、このことは老齢の入れ歯には好都合です。
粘度が低下するのは逆に接着には不利ですね。
ただし、上の入れ歯では、上顎の大部分を占める口蓋という部分にある口蓋腺が、粘液を出すので、吸着しやすいのです。
唾液は水、電解質、粘液、多くの種類の酵素からなります。
正常では一日1〜1.5リットル程度(安静時唾液で700〜800ミリリットル程度)分泌されます。
成分の99%以上が水分であり、有機物(亜鉛含有タンパクなど) 0.4 〜 0.5 %、無機物 0.1 〜 0.3 %、微量のガス からなります。
唾液の作用には次のようなものがあります。
(1)抗菌作用
口腔内には1グラム中に10の11乗程度の善悪の細菌が存在しています。
簡単に増殖しないように、唾液には抗菌作用を持つ物質であるラクトフェリン、リゾチームなどにより細菌の増加を抑えることが出来ます。
ラクトフェリンは口腔内の第二鉄イオンと結合する働きがあります。
第二鉄イオンは細菌が成長するために必要な成分であり、このイオンが減ると細菌は生きることが出来ません。
またリゾチームは細菌の細胞の壁を分解させる働きがあります。細胞壁が分解されると細胞は自然と溶解し始め、生きてゆけなくなります。
ラクトペルオキシダーゼも細菌に抵抗し、発ガン物質を減弱させる働きもあります。
IgA(免疫抗体)も細菌に抵抗してくれます。
(2)粘膜保護作用
分泌される唾液には粘性タンパク質のムチンが含まれています。
ムチンは水分を多く含む分子構造をしており、粘膜や食べ物を覆う作用があります。
粘膜の表面を覆ったムチンは乾燥を抑える保湿効果があるほか、食物などの外部からの刺激に対し口腔内の粘膜を保護する作用があります。
また、食べ物を覆うと同時に口腔内に付着している細菌も取り込み、これらを食塊として胃へ移動させて、塩酸などで殺菌させる働きがあります。
唾液中には、口腔粘膜のただれや消化管粘膜の潰瘍を予防するような物質(上皮成長因子EGF)が存在します。
胃潰瘍があると生体はEFGを増加させます。
摂食後の胃の酸性度はやや低くなり、EGFは機能しやすくなります。
また、神経節や神経線維の成長を促進させるNGF(神経成長因子)を含んでいます。
(3)再石灰化作用
歯の表面は硬いエナメル質が覆っています。
エナメル質はモースの硬度で約7前後で、水晶や石英ほどの硬さに匹敵します。
鉄の硬度は約4、純金は約2.5程度と比較するとその固さがご理解願えるでしょう。
しかし、硬いエナメル質も酸の存在下では溶けてしまいます。
虫歯の原因菌であるS・ミュータンス等の発生する酸(乳酸)や甘い酸性の飲食物などによりエナメル質の表層はたえず溶解しています。
このエナメル質が溶解する現象を脱灰といいます。
そのまま溶解すると虫歯が進行しますが、唾液にはエナメル質の成分であるハイドロキシ・アパタイトが含まれており表面を常に修復しています。
これを再石灰化といい、歯の表面を再生し虫歯を防いでいます。
またスタテチンがカルシウムと結合して歯を強化しています。
(4)pH緩衝作用
酸性に傾く環境から歯を守る機能が緩衝作用です。
虫歯は、細菌、食物、本人の歯質、時間経過の4つの条件が重なったときに発生します。
通常の口腔内はpH6.8〜7.0で中性を保っています。
エナメル質が溶解し虫歯になるにはpH5.5以下(歯の根元の象牙質またはセメント質はPH6前後)の環境が必要です。
pHが酸性に傾いた環境を中和させる機能のことをph緩衝作用といいます。
緩衝作用の働きをする唾液中の成分が重炭酸塩やリン酸塩です。
これらは酸を中和しpHを一定に保ち細菌の発生する酸や酸性食品が歯を溶かすのを防いでいます。
唾液緩衝能を計測するには、採取した唾液をストリップのテストパッドに垂らし、5分経過した時点で、テストパッドの色の変化とカラーチャートの色を比較します。
青色であれば、緩衝能が高く、pH≧6.0(アルカリ性)です。
黄色だと、緩衝能が低く、pH≦4.0(酸性)です。
(5)消化作用
口腔内は消化器官としての重要な働きも持っています。
唾液中のアミラーゼは、でんぷん、アミロース、アミロペクチンなどの糖質を加水分解し、マルトース、イソマルトース、グルコースなどを産生する消化酵素です。
これらは腸粘膜でさらに分解され速やかに吸収されやすくなります。
正常な血液中には膵臓からのもの(膵型)が40%、唾液腺からのもの(唾液腺型)が約60%の割合で含まれています。
耳下腺から主に分泌され、耳下腺炎(オタフクカゼ)では、より多く分泌されます。
臓器から血中に出たアミラーゼの寿命は非常に短く約二〜四時間で消失します。
血清アミラーゼの三分の一は腎臓から尿中に排泄されるため、腎不全になると尿への排泄が低下して、血中にうっ滞し、血清アミラーゼは増加します。
また唾液の通路の詰まる唾石症でも増加します。
唾液腺のアミラーゼが上がるものに、シェーグレン症候群という自己免疫疾患があります。
シェーグレン症候群の患者さんにはドライアイ、ドライマウスがみられます。
目の乾燥(涙が出ない・目がゴロゴロする・目がかゆい・目が痛い・目が疲れる・物がよくみえない・まぶしい・悲しい時でも涙が出ない)、口の乾燥(口が渇く・唾液が出ない・口が渇いて会話ができない・味がよくわからない・口内が痛む・舌の表面が割れる・夜間に飲水のために起きる・虫歯が多くなる)、鼻腔の乾燥(鼻が渇く・鼻の中にかさぶたができる・鼻出血がある)。
さらに唾液腺の腫脹と痛み、膣乾燥、レイノー症状、関節痛、夜間頻尿、紫斑、皮疹、日光過敏などがみられることもあります。
このように、病気の発見にもアミラーゼは指標となるのです。
また、この唾液アミラーゼは塩素イオンで活性化されることが分かっています。 人間が塩気を好むのも、原因かもしれませんね。
(6)自浄作用
咬むことで唾液がたくさん出てきて、口腔内の食べかすを洗い流します。
また、食べたり話しをするとき舌や頬の筋肉が動き食物残渣を取り除いたりします。
このように自然の生理的なことで口腔内にある食べかすがある程度きれいになることが自浄作用です。
よく噛むことにより、唾液の量は増えますので、噛めば噛むほど、自浄作用は高まるというわけです。
話は変わりますが、トカゲの唾液から、画期的な糖尿病治療薬が開発されたそうです。
アメリカのアミリン・ファーマスーティカルズ社が開発した「Exenatide」という薬で、開発者によると、まだ実験段階だが、糖尿病患者の血糖レベルを抑えるだけでなく、減量効果もあるそうです。
この魔法の薬の主成分を含む唾液を分泌するのは、アリゾナの砂漠に生息する毒トカゲのアメリカドクトカゲです 。
このトカゲは1年に4回程度しか餌を食べないそうです。
そのかわりドカ食いをするそうです。
そのドカ食いをする時に、急激に血糖レベルが上がらないように抑制する成分が唾液に含まれているということなのです。
アミリンは、メトホルミンやスルニホル尿素といった薬、もしくはそのコンビネーションで血糖レベルを抑えることが出来ない糖尿病患者155人を対象に24週間、Exenatideを投与したところ、44%の患者の血糖値を目標レンジ内に抑えることができたとのことです。
また、患者は平均3.4キロ体重が落ちたそうです。
「The World of Zoology」によると、アメリカドクトカゲは放牧によって生息地が激減し、数が減っているとのこと。
アリゾナ、ユタ、ネバダでは州法で保護されているというのだけど、唾液の採取が難しそうですね。
FDA(米食品医薬品局)は、この薬を糖尿病治療薬「バイエッタ」(Byetta)として承認しました。
化学名「exenatide 」という物質で血糖値を下げる効果があり、成人してからかかる「2型糖尿病」の治療に使われます。
バイエッタは、1日2回投与される注射薬で、単独で使われず、従来からある経口降糖剤と一緒に用いられると言うことです。
その他簡単に排卵期をチェックする方式として、アメリカ医学界で数年にわたる検証の上開発されたLadyDay(レディデイ)というバイオテスターがあります。
唾液をテスターにつけて覗くだけで排卵期をチェックすることができるとのことです。
確率は80%とのことです。
唾液の結晶構造を拡大鏡で見て、判定するのですが、人によっては、結晶構造がどのステージでもはっきりと見えない場合もあるようです。
そのうち改良されるでしょう。
ともかく、唾液に関する話は尽きませんね。
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