チューインガムの発祥は西暦300年ごろ、メキシコ南部から中央アメリカに住んでいたアステッカ族、マヤ族にその源を求めることができます。
その頃サポディラという高さが20メートル以上にもなる巨木が沢山生えており、住民はチクルという樹液のカタマリを噛む習慣がありました。
この樹は鋼鉄並に堅く、タンニン分を多く含んでいるため腐食しにくく、虫に食われることも少ないので神殿にも使われていました。
住民が噛んでいた理由は、のどの渇きや空腹をごまかすためでした。 そして忘れてならないのは当時の男子の美的感覚です。顎の発達している男ほど格好が良いとされたのです。
その後マヤ文明は16世紀にスペインに征服されて終りますが、チクルスを噛む習慣はメキシコインディオやスペイン系移民に受け継がれました。
現在の甘味料を加えたガムは19世紀半ば以降にアメリカとメキシコとの戦争中にチクルのことを知った将軍の関係者が、甘さを加えてアメリカで大ヒットとなりました。
日本での発売は1916年ですが、あまり売れませんでした。
さてナゼ人間はガムを噛むのでしょうか。本来、動物は肉体と精神のバランスをとるために軽い動作を繰り返すものです。おりに入れられた動物が動き回っているのでも分かるでしょう。 ドイツの哲学者カントも毎日決まったコースを、ほぼ同じ時間に歩きながら考え事をしたそうです。
体にとってはよく噛むことによって、顎の筋肉が脳にいたる血管を刺激して、脳内の血流量が増えるのです。これがボケ防止につながるといわれています。また、眠気防止にもなります。
歯科においてはよく噛むことによって、唾液の出がよくなり、虫歯ができにくくなるということもあります。また、唾液中に含まれる成分がガンの予防に効くとも言われています。
ガムといえばキシリトール入りが流行していますね。キシリトールの原料は、カバやブナ、トウモロコシの芯から取り出されるキシラミン・ヘミセルロースという成分です。
これは、むし歯の原因菌の活性を抑え、歯の表面への菌の付着を阻止し、歯を溶かす酸の生成を邪魔します。
その上に唾液分泌をたかめて、歯の再石灰化を促します。
ただし、「むし歯を起こす力に対抗する」という表現は、消費者の誤解を招きやすいとして、世界の多くの研究者は「絶対にさけるべき」との見解をもっています。
図は、0.5%の砂糖を人の歯垢の上に滴下したときと、0.5%の砂糖に9.5%のキシリトールを加えて、滴下したときの歯垢のpH変化を調べたものです。
砂糖の20倍ものキシリトールを加えても、砂糖による歯垢のpH低下を抑えることはできません。
これでは、キシリトールに抗齲蝕誘発性があるとは云えません。
キシリトールが50%以上入っていないとむし歯予防効果がないようなことが言われていますが、右図のように、95%入っていてもむし歯をおこしうるのですから、これは間違いです。
もちろん、キシリトール入りのお菓子のすべてがむし歯をおこさない、というのも間違いです。
キシリトール入りと大きく表示されているお菓子で、砂糖や水飴のようにむし歯になるものが入っているものさえ市販されています。
このようなお菓子はむし歯の原因になります。
試験管の中(すなわち,酸素のある状態)での、ある特定の細菌に対する効果を拡大解釈して、キシリトールに抗齲蝕誘発性、すなわち、むし歯の発生を防ぐような作用があると言うのは、間違いです。
キシリトールそれ自身にむし歯を起こす能力がないだけの話です。
また、介護老人の死亡原因として多い嚥下性肺炎の原因菌である、肺炎連鎖状菌の発育を抑える作用があるといわれているのは注目です。
これは口の中に住んでいますので、予防としては一考できるかもしれません。
肺炎連鎖状球菌や虫歯の原因菌とされるミュータンス・レンサ球菌や乳酸桿菌、低pHレンサ球菌などはpHの低い状況で生残る力(耐酸性)の強い細菌です。
そのため、頻繁に間食して歯垢のpHが頻繁に低下する環境では、これら耐酸性の強い菌は優勢になります。
これに対し、pHがあまり低下しない環境では、他の菌が優勢になります。
ですから、肺炎連鎖状球菌やミュータンス・レンサ球菌の数を減らす効果は、キシリトール独特のものではなく、歯垢のpHを低下させないマルチトールやエリスリトールなどでも同じ効果があると考えられます。 ただ甘さが砂糖と変わらない強さがるので使われているだけです。
砂糖を100としたときの甘みを次に示します。
キシリトールには、砂糖と同等の甘さのあることは事実なので、子供の感受性の強い時に下手に甘さを覚えさせると、甘さに鈍感になることも事実なので、与えないに越したことはないでしょう。
あまり沢山食べると、おなかを壊すので注意しましょう。何事も適度が肝心です。
なお、最近のガムは石油から合成された酢酸ビニル樹脂が主成分となっています。 接着剤にも利用されているものですから、決して呑み込まないようにしてください。
|