今は親もずいぶん長生きできるようになりました。
しかし昔の人は、第三大臼歯は全ての歯のうちで最後に生えて、大体18歳から25歳の間に生えてくるので、そのときには親が死んでいることが多かったのです。
そのため此の世で親の目に触れない歯、「親知らず」と呼んでいました。
ところがこれは人類だけがもつ特徴で、一般に霊長類では、サル(類人猿)でさえも、いちばん後から生えてくるのは、犬歯でした。
類人猿では、犬歯が大きくなる方向に進化し、ヒトでは、小さくなる方向に進化しました。
犬歯の必要度や使い方の違いであり、下あごの第一小臼歯も同様です。
人類は、類人猿のように犬歯を威嚇や性的アッピールには使いません。
切歯とともに、食物をかみ切ることに使い、小臼歯は、すりつぶしに使うのです。
この犬歯の縮小化を含む歯と顎骨の縮小が、脳の大型化を導いて、脳の進化に結びついたのです。
それはともかくとして、
大昔は、今ほどやわらかく調理して食べることはなかったので、顎が発達して、親知らずも立派に生えて、咀嚼に参加していました。
しかし現代人はやわらかいものを食べている傾向にあるため、歯を支えている顎の発育が悪くなり、 一番奥にあり、なおかつ最後にはえてくる親知らずの生えてくるスペースがなくなってきました。
そのため変な方向にはえたり、傾いていたり、時には埋まってはえにくくなっていたりします。
結果食べ物のカスがつまりやすくなったり、歯ブラシが届きにくくなって、虫歯や歯肉の炎症が起こりやすくなるのです。
そのため、他の健全な歯に影響を与えることもあります。あまり頻繁に不快症状が起こるときは、歯を抜くことも視野に入れねばなりません。
はえかたが比較的まっすぐに生えているような歯の場合は、一本前の歯が将来抜かねばならなくなった時は、ブリッジをして入れ歯をしなくていいようになりますので、残しておきたいですね。
ともかくいずれにしても不潔になりやすい歯であることは確かなので、よほど自覚を持って御自分が清掃に取り組まないといけません。
また、そのほかに意外な利用法もあります。形が親知らずに似ている歯、とくに第1大臼歯が保存不可能で抜歯しないといけないときは、親知らずを抜いてそこに移植することができることもあります。
親知らずが将来かみ合わせに関与しなくて、歯の根の完成度が1/3ないし1/2程度の親知らずは、移植術ができることがあります。
初めの内は歯が動いている感じがしますが、たいていは日を追うごとにしっかりとしてきて、機能するようになります。
すでになくなっているところへの移植も応用としてはあります。
ついでに親知らずを抜いた後の注意も伝えておきます。
抜歯後は、激しい運動など疲れることは止めましょう。
回復力が悪くなります。
夜更かしや飲酒も控え、入浴は軽くにし、食事は刺激の強いものは避けてください
。出血が少々あってもうがいをし過ぎないことが大事です。
うがいは傷口を覆う血餅というもののくっつきを悪くして、下手をするとドライソケットといった疼痛を伴う不快症状の大きな原因になります。
もし出血が気になる状態ならガーゼかなければティッシュでもよいのでぎゅっと噛んでいれば大丈夫でしょう。
血の止まりにくいときは紅茶や緑茶のティーバッグをしっかりかめば、成分のタンニンという鉄分が止血の手助けをしてくれます。
煙草も控えたほうが無難で、血管収縮効果から一時的に血圧、脈拍が上がるので炎症が広がりやすいのです。
飲酒も飲んだ後は血管を拡張しますが、醒めるときに、逆に血圧を上昇させます。
抜歯後、もし、患部周囲の頬が熱をもって腫れてきたら冷やして下さい。
冷やして気持ちのよい間だけ冷やせばいいのです。
通常は8時間以内でしょう。
歯磨きは、軽圧で痛くない程度に付近まではきれいに磨きましょう。
うがい薬を出されることもありますが、甲状腺に異常のある人は、ヨード系歯だめですので医師に申告しましょう。
腫れが続く場合は、薬はきっちりと飲みきりましょう。
次の指定日までに、痛みや腫れが続くようですと、指定日でなくとも医院に行きましょう。
不快症状としては、一時的に唾を呑み込むと痛くなったり、口が開けにくくなる場合があります。
口を開ける筋肉の周囲まで炎症が進むのが原因ですが、腫れが退くとともに必ず戻りますから心配しなくとも大丈夫です。
抜いた親知らずの前の歯がしみてくることもありますが、自然に治ります。
治りにくければ、医院でフッ素入りのサホライドという薬を塗ってもらうか、ソフトレーザーをかけてもらえば、治まります。
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